小人の入り江・・・1

9月25日、朝から雨が降っている・・・さして寒さは感じない

ベイリー先生の洗濯機を借りる・・・

雨があがり散歩に出かける

雨上がりの上高地みたいな空気感である

写真上  ほぼ全てがボードウオークの道

中心部を一巡して20分、入り江の奥まで往復して40分位だ

写真上  ひょっとして人間よりペットの方が多いかも・・・桟橋で飼い主の漁船を待っているみたい・・・

写真上  二軒しかない店は閉店中・・・9時に開店なのに、もう時間は過ぎていますよ・・・

写真上  大型犬が多い・・・しつけが良い・・・

写真上  ちょっと外れにある瀟洒なキャビン・・・妻はこんな家が好いという

写真上  雪対策?の艇庫付のフローティングハウス・・・私はこのアイディアが好きだ

写真上  「頭を撫ぜてください・・・ほっぺも!」・・・妻は幸せ!

写真上  ボードウオークから見るオンディーヌ

写真上  一軒、一軒個性的なキャビンが並ぶ

写真上  入り江の奥には、本当に「小人の家」みたいな・・・

写真上  そして、オンディーヌの上から見た小学校(淡いブルーの屋根)等、村の中心部・・・

写真上  アウターハーバーにある水上機の桟橋・・・青い小屋がターミナルビル・・・悪天候以外は毎日便が有る・・・もちろんハンターや釣り人の為のプチホテルも有り、夏は賑わうそうだ・・・

 

これで、「小人の入り江」の雰囲気は伝わったでしょうか・・・?

小人の入り江 アラスカの秘境

今回の旅で一番素敵だった村。それは氷河湾国立公園近くにある小さな入り江、人口30人のエルフィンコウブ(Elfin Cove)、和訳「小人の入り江」だ。車道が無い、小さな海辺の村の交通手段は全て船。

写真上  インナーハーバーへの水路

写真上  インナーハーバー・・・波の入らない静かな入り江で、疲れきったオンディーヌのつかの間の休息

写真上  入り江を囲み、素敵なキャビンが集まっている

私たちは、船を舫いさっそく村を散策すると小さな学校に出くわした。生徒は9人の小学生のみ。日本人がヨットに乗って来たのは初めてと、子ども達は興味津々。若い小柄な女性ヨランダ・ベイリー(Mrs.Yolanda Bailey)さんが先生だった。

彼女は私たちに、日本の事を是非話して欲しいという。着いたばかりで疲れていたし、英語が流暢ではないので困ったが、国際親善だと思い、折り紙の鶴を教えることにした。

写真上  妻の折り紙の授業・・・子供達、結構真剣に参加してくれた

写真上  ベイリー先生と少年クリス・・・特にクリスとは親しくなる

その日は、ヨランダの家でサーモンをご馳走になった。彼女はメキシコ系アメりカ人で、今回の旅で一番素敵だと思えた人だ。物腰の可愛さ、アメリカ人らしくない落ち着いた明るさ、何よりソフィスティケートされた優しさが魅力的だった。

拙い英語でしゃべる私たちのために、ゆっくり、表現もいくつか解る言葉に言い直して話してくれる。一生懸命理解しようと聴いてもくれる。すっかり意気投合し、彼女となら何時間でも英語で会話できそうだった。そして離れがたかった。

この村は小人の入り江という名前が正にピッタリの、現実とは思えない夢のような美しい場所だが、冬になればかなり厳しい自然環境だ。お店は小さな何でも屋があったかもしれないが、ほとんどは通販で、昔の電話帳のような分厚いカタログがどこの家にもある。

写真上  テレビ受信用の大きなパラボラアンテナが彼方此方に・・・森に浮かぶ集落

夏には、観光客や漁の船で人口は倍になるという。

奇跡の四日間・・・4

00時、妻からワッチ(見張り)交代・・・内海航路入り口まで40海里

気温10℃、SWの風7メートル、ウネリ有り、今夜は寒さを感じない

この時期、奇跡的な穏やかな海に感謝する・・・信仰の無い私は何に感謝しているのだろうか・・・・「ポセイドン」?

ギリシャの神々は、人間臭く解り易い・・・

 

闇夜である・・・月の出が待ちどうしい・・・

 

夜は私を覚醒させる

 

ボーイスカウトの夜行・・・

自衛隊の潜入訓練・・・私は陸上自衛官だった

新宿ゴールデン街の千鳥足・・・

四谷・荒木町の梯子酒・・・

そして、夜間航行・・・

見えないものを見ようと目を凝らす・・・

見えないものはイメージを膨らませ巨大化する・・・

水平線から昇りだした赤い月の正体が何か解らず・・・ゾッ!としている

揺らめくオーロラに不気味さを感じ・・・

正体不明の明かりに落ち着かない・・・

写真上  外洋(Fairweather Ground)から脱出できる時が来た

写真上  06時、内海航路(Inside Passage)入り口を覗き込む

写真上  06時58分、Cape Spencer灯台の光を視認する

写真上  07時27分、灯台正横にて変針しCross Soundへ入る・・・潮目の上空に海鳥が乱舞している

潮流は下げ潮、海面が騒いでいる・・・荒天時には痛い目に遭いそうな海峡である

写真上  左舷、北側にTaylor Bayその奥にBrady Glacierゆったりと蛇行し海に消える

写真上  10時、小人の海岸(Elfinn Cove)へ入港

港を守る様に点在する島を大きく回りこむ・・・近道はしない

最初に会ったスキッフ(小船)の漁師は軽く会釈して沖に向かって走り去った

奇跡の四日間・・・3

02時、月が無い夜、星が海面に映え明るい

奇跡的な凪(デットカーム)が続いている・・・

この海域の唯一の避難港ヤクタット(Yakutat)へは入らないと決め・・・

昨夜21時に針路を変え沖出しにした・・・残航211海里!

 

ポートサイド(左舷)に低く薄く曖昧なオーロラが見える

今夜は海岸線がハッキリしない・・・

微かにゆったりとウネリがある・・・

オンディーヌは夜空に溶け込み重力から解放されて浮かんでいる感じだ・・・

船尾の航跡は今夜のオーロラの様に白く尾を引き

時々、宝石のように夜光虫が光る・・・

 

03時34分、赤い月が昇る、水平線に霧、気温8℃

気圧1005mb・・・風は全く無い!

 

日の出の後、視界がはっきりする

08時、Mt.St.EliasからMt.Fairweatherまでが視界に入る

長さ220キロメートルを越える、氷河をまとった大山脈である

写真上  Numerous Glaciers「幾多の氷河群」と呼ばれる山塊

 

大きな低気圧に挟まれたユルユルに緩んだ高圧部にいるようだ

天気図上  天気図右「04」の数字の所に居る

写真上  Numerous Glaciersの南部

写真上  Mt.Fairweather(15,320フィート)

私達はこの山脈の裏側へ廻り込まなくてはならない・・・そこは安全な海域である

 

14時、気圧1004mb、気圧が下がる兆候がある

気温9℃、NEの風10m、Yakutatの南44海里

気象FAXの情報にベーリング海の流氷の動向が載りだす

明後日から海は荒れそうだ・・・

写真下  Mt.Fairwetherは更に近付き夕日が射し始める

この山の命名は「キャプテン ジェームス クック」である

彼由来の地名も多い、アンカレッジへの長い大きな湾は「Cook Inlet」という・・・今、私達の航行しているこの海域は「Fairweather Ground」と呼ばれている・・・何度航行しても良い天候だったらしい・・・彼と同じ「ツキ」があるのかも・・・

18時、焼きそばで夕食

20時、船長仮眠へ・・・妻がワッチ(見張り)へ・・・

奇跡の四日間・・・2

9月22日、03時、私は仮眠を取っていた

「貴方! 起きて!外を見て!・・・ホラ!!」と起こされる

北の空が不思議な色に染まっている

 

私は愕然とした・・・淡い白色が空いっぱいに広がっている

核戦争が始まった・・・・!!!

その下はPrince William Soundだ

プリンス ウィルアム サウンドの北は入り組んだ広い湾で、アラスカ原油最大の積出港が有り、そのバルディーズ(Valdez)港が攻撃されたと思った・・・

 

妻は「凄いオーロラね・・・」と

なんだ、オーロラなのか・・・

我ながら慌てん坊である・・・・・我ながら肝っ玉が小さいやつだ!

 

7月7日にアッツ島を過ぎてから幾つもの戦略ミサイルのレーダーを見てきた

写真上  アリューシャン列島の対ソ連ミサイルレーダー基地

それがいつかトラウマになり心の隅に溜まっていたのだろう

そして、この「好天の恐怖」・・・何時か天候は崩れるのだ・・・

この恐怖とない交ぜになり

寝ぼけた頭で、パニックに成ったのだろう・・・・

妻の前で言葉にしなかった・・・

頭の中が整理できるまで寡黙にそれを見つめていた・・・

 

10時、タンカー通行量が多いという本船航路中央

周囲には全く船影なし・・・

 

13時、いなり寿司で昼食・・・青空にジェット機の白い雲が幾筋も交差している・・・旅客機の大圏航路の真下なのだろう

14時、気圧1014,5mb、今日も±2mb以内に安定している

北の風5メートル以下・・・凪である

エンジンを整備してくれた「油壺ボートサービス」の藤原さんの話を思い出す・・・

「北の海では何日も凪が続くことがあるよ・・・」と

藤原さんは北洋の漁師だった人だ

 

天気図の受信が出来ない・・・

アンテナをチェックするとカバーの樹脂が割れ本体が剥き出しだ

分解、樹脂に凝固剤を混ぜ修理、組み立て・・・受信できるか不安

気がつくと北側に氷河海岸の大パノラマ・・・!!!

 




確かに美しいが、この風景の中に大自然の破壊的パワーを感じ・・・畏敬の念に囚われる・・・・人はあまりに小さく弱い・・・

ここで暴風に遭ったら、私は惨めに降参するしかないだろう・・・

 

18時、「新宿中村屋のカリー」2袋、圧力釜で炊いたホカホカのご飯で大盛りカレーの夕食・・・レトルトだけど絶品!!

天気図受信成功!・・・この海域を緩い高気圧が覆っている

よし!・・・内海航路へ直行しよう・・・

 

赤い三日月は水平線から上がり、青く色を変えた・・・

星屑はその光に負け・・・星座は鮮やかに現れる

奇跡の四日間・・・1

9月21日、セワード発08時30分、気圧1015mb、気温2℃

北の風20メートル・・・妻は出港に不満だ

復活湾中央は北風38メートルを越えている・・・海面は波で真っ白!

私の確信・・・この風はこの地方のみのWilliwawである(なぜなら天気図を充分吟味したから)・・・ストームジブ(荒天用前帆)一枚で豪快なランニング(追い風走)がアドレナリンを湧かせる・・・!

 

復活湾の一番内側の島・・・Fox Islandのサニー海岸は強風で水煙が渦巻いている・・・海図には沈船のマーク・・・その時どんなドラマが有ったのだろう?

次の円錐形の小島Hive Islandとの間を抜け復活半島先端の岩礁Barwell Islandを北に見て東に転舵する・・・外洋へ・・・11時55分、外洋は案外波静かだ・・・これで帰らなくていいとほっとする

心の隅っこにセワードへの帰港を考えていたわけだ・・・

写真上  復活半島(Resurection Pninsula)先端をかわし外洋へ

 

13時、1014mb、気温4℃、NWの風7~24メートル

Cape Fairfieldの南5海里から

Excelsior Glacierを撮影・・・写真を撮る精神的余裕が湧いてきた・・・

写真上  氷河海岸が見え始める

18時、Montague諸島南2海里の浅瀬通過、海底から湧き上がる様な悪い波で、15分ごとに位置を出す・・・悪天候なら凄い海になるだろう

22時、風はほとんど無く機走(エンジンで走る)で快調に距離を稼ぐ・・・凄い数の星達・・・星が多すぎて星座が解らない

セワード出港のタイミングを計る・・・4

翌日、強風は残っていた

浮き桟橋の水道の蛇口にツララが下がっていた

天気図を精査して明朝の出港を決める

船内外の戦闘準備を完璧にする

妻は戦闘食「いなり寿司」などの準備に入る

写真上  近くの桟橋にシーライオン、鳴き声が騒々しい・・・少し怖い

 

クラブハウスのシャワーを借りる

先に私、妻は途中からお湯が切れ・・・悲鳴をあげる・・・

写真上  セワードの海岸線

セワード出港のタイミングを計る・・・3

9月19日、昨夜からの雨は上がったが強風は治まらない

新雪の雪線がまた下がった

写真上  強風の寒い朝

無人だった「セワード ヨットクラブ」に数人の人々

写真上  会長のジョーンズさん夫妻と子息来船

 

クラブ旗を交換しゲストブックに記帳する

オンディーヌは「東京湾 クルージング ヨット クラブ」所属です

クラブハウスを自由に使って好いと言ってくれる

ナンバー錠の秘密の番号を教えてくれる

シャワーは一階の入り口の脇

二階の図書室も自由に閲覧してよい

何冊か現在購入できるガイドブックがあり、参考になる

赤とブルーのバインダーはメンバーの航海記録が海域ごとに整理してある

持ち出し厳禁なのでメモさせてもらった・・・とても参考になる

メンバーは週末しか来ない・・・アンカレッジ在住者が多いという

今日(土曜日)のレースは強風で中止になった・・・

 

終日、Williwaw吹き止まない

写真上  氷河の谷間から冷たいWilliwawが吹き降ろす

歩くのも大変なくらいだ

川部さん来船し、豆腐など日本食を差し入れてくれる

有難うございます

以前はアンカレッジ空港の免税店で働いていたそうだ

 

夕食、皮手作りのギョーザ、ダンジネス蟹の味噌汁

セワード出港のタイミングを計る・・・2

浅い眠り・・・夢を見る

大事な場面でエンジンがスタートしない・・・

発電機も回らない・・・

ひょう変するから凪ですら恐ろしい・・・

マストが折れる・・・

ビルジポンプ(排水ポンプ)が壊れる・・・

プロペラにロープがからむ・・・

清水タンクが空だ・・・

いつかやって来る荒天が怖い・・・

決断できない自分が・・・腹立たしい・・・

古い友人達、古い女友達が現れる・・・

思いもかけない人が登場し・・・洒落た台詞をつぶやき消える・・・

私が話かけた友人は・・・何も言わずにたたずんでいるだけだ・・・

存在は感じるのに、姿が見えない奴もいる・・・

 

いつも、心が、急ぐ・・・

 

目覚めはいつもグッタリしているはずだ・・・

セワード出港のタイミングを計る・・・1

朝のニュースでアラスカ内陸の都市フェアバンクスで17インチの積雪・・・今年は異常だと報じている・・・セワードも新雪の雪線が更に下がった

ここからアラスカ内海航路(Insaide Passage)の入り口まで順調に航行できれば4日ほどの航程である

 

途中安全に避難できる港はほとんど無い

詳細な海図も入手できなかった

最低でも4日間の好天が欲しい

到着のとき未知の港で、闇夜と荒天は御免だ・・・!

天気図を検討し、全てのタイミングを計らなくてはならない

 

日本出発から使ってきた「日章旗」は風ですり減り

日の丸部分も侵食され始めている

写真上  心気一転、新しい日章旗を掲揚する・・・白地が眩しい!

 

低気圧の中心、960mb風無く快晴

巨大な低気圧の場合、台風の目の中にいるような状況になる

写真上  セワード漁港・・・中央やや左にオンディーヌ

オンディーヌを給油バースへ移動・・・軽油を満タンにする

天気も午前中はもちそうなので、そのまま出港し「復活湾」のピクニックへ

写真上  作務衣、ライフベストも着けずラフすぎ?・・・後ろはべアー氷河

 

Spoon氷河の入り江へ・・・日差しが本当に暖かい!!

写真上 懸垂氷河、Spoon Glacier

写真上  ラッコが腹の上に蛸を乗せ、千切って食べている

全く警戒していない・・・それにしても凄い食欲!!

写真上  反対側、西側のBear Glacierへ向かう

ベアー氷河から流れ出る水がミルク色に海面を染める

午後から北風が強くなり急に気温も下がる・・・漁港へ戻る

帰港すると日本の女性が待っていた

写真上  川部さん

日本のヨットが来ていると知らせてくれた人がいたと・・・

一緒にコインランドリー、スーパーマーケットと案内される

スーパーで買ったテンダーロインステーキで夕食

気象FAXによると明日は嵐・・・外は風雨始まる