有難うダグ・・・1

休漁の日(アラスカ州政府の「フィッシュ・アンド・ゲーム」の部門が州全体の漁獲量を監視し、出漁の日を決めていた)と言うことでダグがオンディーヌへやってきた

 

私はオートパイロットの点検をしていた

ダグの漁船「Mrs.Sue K.」の乗員ラリーを呼び出し

油圧系統のチェックをしてくれる

ラリーはベトナム戦争に従軍していた

「空母エンタープライズ」の乗組員で

艦載機の整備が担当で油圧系修理のベテランだという

 

早速見てもらうと既に発注したパーツではなく

他の、部品が必要であることが解る

ダグの船の隣にオンディーヌを移動し

ラリーの工具や測定器を使い

徹底的に分解・検査してくれる

必要な部品等を書き出し代理店へ連絡してくれた

 

夕食に招待した

妻の「饗応夫人」にスイッチが入り

とんかつ、ミートボール中華風、紅鮭チャンチャン焼き、ポテトサラダ・・・が並んだ

写真上  左からダグ(Mr.Douglas F. Karlberg)、中央ラリー(皆、食べすぎ、飲みすぎ・・・!)

ダグは自船にとって返しボルドーワインを持ってくる・・・旨し!!

 

話が盛り上がる

春の鰊漁はラリーがヘリコプターで魚群を探す

他の漁船のセスナやヘリで上空は空中戦のようになる・・・海上も!

ダグがまき網で鰊を一網打尽!・・・興奮して聞き入る

私たちは、日本の漁師の話、今までの旅の話を

アラスカの漁獲のかなりの数は日本へ輸出している

日本の水産マーケットに興味深々のようすだ

 

ここでも力強い助っ人に会え

旅を続ける勇気をもらう

サンドポイントへ

風もさして吹かなかった

少々トリッキーなルートであったが

約10時間でサンドポイント(Sand point)到着

到着30分前霧が出始めるも

港近くにブイがありレーダーにはっきり映り安心

 

フランス艇「ジャバデュー」はすでに到着している

オートパイロット無しの航行はやはりクタビレた

雨が降り出し

夕食は本格的な野菜タップリラーメンで温まる

写真上 比較的大きな漁港である・・・桟橋先端にオンディーヌ

翌朝、フランス艇「ジャバデュー」は寄り道しながら

コーディアーク(Kodiak)島へ向かうと出航

天気回復・・・妻は洗濯

村のマーケットで買出し・・・物価はそこそこ高いそうだ

昼食は外食、ハンバーグほどの厚さのパテのハンバーガー、旨し!

 

「ピーターパンシーフード」の事務所は何処と道を聞いただけなのに

漁師さんピックアップトラックを貸してくれる・・・・・初対面なのに・・・かなり離れた飛行場の中でした

ピーターパンのスタッフはここでも親切である

写真上  左端親切な「ダグ」と「ピーターパンシーフード」スタッフ

各方面へ連絡

 

漁師船長のダグ・カールバーグ氏が、船までピーターパンからFAXを届けてくれる

おまけに、紅鮭、筋子を頂く・・・この人にこれから大変お世話になる事に・・・

 

夕食はすき焼き、今日旨そうなブロックビーフ入手

東京・四谷荒木町「桃太郎」の主人から頂いた牛刀良く切れ

見事な薄切りを皿にいっぱい盛る

そしてやはり桃太郎の差し入れ、清酒「〆張鶴」

筋子の歯に絡みつく旨い脂をさわやかに流してくれる

美味しくて、嬉しくて、食べすぎ、飲みすぎで直ぐ眠くなる

ドルゴイ ハーバー(Dolgoi Harbor)

応急修理のマストの旅である

安全そうな錨地、港を巡りながら旅を続けるしかない

ハバーマスターは「ハーバーホッピングだね」と

 

8月9日上天気、風も弱い

フランス艇「ジャバデュー」はすでに岬をかわしている

高木さん、エンジニア氏、事務の女性、今日も忙しそうで

船に招待も出来なかった「有難う」の挨拶だけ

ハーバーマスターへ10日分の停泊料(電気込み)90ドルを支払う

 

09時44分キングコーブを発つ

東の風11メートル向かい風である

予定では6時間の航海である

目的の錨地はDolgoi Harbor

 

水路誌よると

猛烈(Violent)なWILLIWAWからも良く守られる

底質は火山灰で錨はあまり効かないが

湾奥の水深12メートルの泥の底質の場所は錨が効く

写真上 ドルゴイハーバーへのアプローチ、岩礁が多い

 

14時19分投錨

湾の入口近くにピーターパンの「フィツシュバイヤー船」錨泊中

「現金で魚を買い取ります(キャッシュバイヤー)」のサインを出している

船の燃料や食料、飲み水なども売っている

写真上 手前の山 Pavlof Vol.8900フィート

 

清潔で安全そうな、居心地の良い入り江だ

雪を頂いた火山が綺麗だ

手前の火山は、活火山?・・・山頂が灰で変色している

気温がなんと20℃、暖かい日差しだ

アラスカの太陽、夏に逆戻りさせる

妻はアップルパイを焼き

今はシャワーを浴びている

写真上  ピーターパン・シーフード・・・キャッシュバイヤー船の灯

WILLIWAWの村・・・9

マスト破損について

破損の引き金を引いたのは

7月28日のワイルドジャイブ(主帆の暴れ)だろう

私の操船ミスでもある

 

遠因としては10年の中古艇であること

カナダから世界を巡って日本へ来た訳だからかなり使い込んでいた

実際、メインエンジンは換装しなくてはならなかった

 

マストを支えるハリヤード(ワイヤー)は全て交換したが

マストは外見上問題があるとは思えなかった

 

ひび割れて、内部から錆びが流れ出ていた

写真上  内部が腐食していた

原因は「電食」・・・電位差のある金属が触れる事による錆びである

 

マストのデッキ付近の内側にウレタンが詰めてあった

マストを伝わり船室内に水が入るのを止めるため・・・?

こんな事をすると此処に水が溜まるのに

 

マストを加工する時

各種金属がどうしても内部に落ちる

そこに水気が有れば「電食」が発生する

しかも、一番ストレスの掛かる場所だ

 

最近はウレタンを詰めたりしない

WILLIWAWの村・・・8

8月8日大風は続き今日も出航は無理だ

アレウト人はそろそろ風は止む頃と言う

 

時間はたっぷりあるから本が読める

数日前から読み出した 澁澤龍彦著「高丘親王航海記」を読みおえる

幻想文学とでも言うのか?

気の弱い旅人がいろんな妄想に取り付かれ・・・・でも後へは引けない

知識はあっても現地での出会いは必ず想像を超える

人、文化、自然、空気・・・

 

心理的には、私のこの航海ともダブル

臆病なのにむこう気が強いニューヨークのゲイの友人Tに読ませたい

これを読み終えたらシャム湾やメコン川に興味が傾き

本棚から、河出書房新社の世界の歴史18「東南アジア」を探し出し読み出す

前著はまんざら作り話ではないみたいみたい

 

熊のこと

私たちが着く三週間前に9歳の少年が、ブラウンベアに頭をかじられ亡くなったそうだ

熊は夜、港の裏山の滝付近を歩き回っているという

ここから500メートルくらいだ

住人は外出はすべて車、ごく近距離でも車だ・・・歩かない

 

車の中にはライフル銃や大型のピストルが置いてある

丸腰で散歩する私たちは・・・熊の餌?

少年が死んでも、村中で集まり熊狩りなんてしない

野生の熊と、武装した人間がここに居るだけのことだ・・・

写真上  車の中から一瞬見えた「ブラウンベアー」

 

WILLIWAWで草原が波打つように

熊の硬い毛皮も波打っているだろう

濡れた鼻を風上にむけ・・・自分の未来を嗅ぎ取ろうとしている

写真上  WILLIWAWが創り出す不気味な雲

WILLIWAWのこと

台風以上の風が数日続くと

風はピタリと止んで「デットカーム(死んだような凪)」となる

いつかは治まる風である

安全な港や入り江で待つだけである

セール(帆)は用を為さない

エンジンで走る、8ノット(時速15キロくらい)はでる

走るというよりは滑るというのがふさわしい

心地よいセーリングを期待してはいけない

臆病な旅人はひたすら「デットカーム」を待つ

WILLIWAWの村・・・7

妻は夏の洋服を洗い整理・・・ピーターパンのランドリーが助かる

メインエンジンと発電機のオイルとエレメント交換、ファンベルト調整やることは一杯ある・・・・

 

昨日つまらぬ事(誰かにとっては、つまらぬ事ではない・・・・?)で喧嘩になり

今日も気まずい

外は3日連続のWILLIWAW

東の風、最大瞬間48メートル、台風以上

港の中で20度くらいヒール(船が横に傾く)する

外は風も強いし、熊もいる

二人で中に篭り・・・気まずい

 

VHF(無線)にフランス語訛りの英語

ア! 彼らが来た

写真上  ダッチハーバー入り口で会ったフランス艇

着岸を手伝う

ハーバーマスターを紹介したり

シャワー、洗濯、買い物の場所を先輩面して教える

 

夕食後彼らの船へ

妻の作ったシュークリームをお土産に

「日本人、大好き・・・」と言う

なんと彼らは「ボジョレ村」の住人でワイン醸造をしていると

 

日本人が「ヌーボー」を買ってくれるので

僕たちは遊んで暮らせると

おまけに「君のヨットはフランス製・・・メルシ!!」

私は「ボルドーやブルゴーニュ」が好で、「ヌーボー」はイマイチとも言えず

また、この「壊れやすいヨットも閉口してる」とも言えずに曖昧に笑った

 

そのせいか写真がピンボケ・・・フランスの映画や文学は好きだけど

 

彼らは今回のWILLIWAWを

私たちが7月29日に滞在していたドラハーバー(Dora Hb.)の北

Ikatan Bayで錨泊し耐え抜いていた言う

ここに居る皆が声を合わせて

「ノーモァ!!WILLIWAW・・・!!!」と・・・叫ぶ

WILLIWAWの村・・・6

チーフエンジニア氏が電動ドリル、ドリルの刃、タッピング、ボルトなど工具袋に入れて持ってきてくれる。パーツはすべて鉄であるが、短時間(ヴァンクーバーまで)の使用であるし、錆びてしまったほうがフィットしていいだろう

「私は今日忙しい・・・君一人で出来るよ・・・」と帰っていった

 

両脇から鉄の副木を叩き込み、船内もチェック

ドリルで穴を開けタッピングでねじを切る

シリコンをつけてボルトをねじ込む

ステイ、ハリヤード ロープ類でマストを固める

写真上  「グットジョブ!!」作業終了

上出来の修理である。チーフエンジニアーの段取りと早い仕事ぶり、やれることは自分でやれ・・・の精神、見栄えよりも実質、これが「アラスカ魂・・・インディペンデント!!」だ

 

恐る恐る「請求額は・・・?」と聞くと「いらない!」と言う

「アラスカ人は困っている人には援助をする、いつか君が誰かを助ければいいことだ・・・」

 

この一言に、おいらはシビレてしまいました・・・。

 

なれない作業で腰が痛い

WILLIWAWの村・・・5

ヴァンクーバーのフィンリー氏へ手紙を書く

 

「8月2日、今私たちはアラスカ半島の西端、King Coveに停泊中です。 マストがねじれ、通常の帆走は不可能です。

 

ヴァンクーバーまでは応急修理のマストで航行しようと思います。好天をとらえ、9月末までには到着したいと考えています。

 

新しいマストの輸入、加工に便利な停泊場所のアイディアをお願いします。

 

私のヨットは「べネトー ファースト38です。マストはISOMAT France」です。

このヨットの前オーナーはカナダ人で、バンクーバーの代理店で購入したと言っていました。

 

到着し次第、発注できるよう情報収集、お願いします。私たちは、以下のルートで南下します・・・・・」

 

手紙を書き上げ、ピーターパンの女性スタッフに添削してもらい投函した。

WILLIWAWの村・・・4

8月にはいった

夜半から強風が断続的に吹く

昼過ぎには凪となる

写真上  岸壁からの鱒つり

 

自動操舵は保障期間中なのでニューヨークの代理店へ連絡

必要な部品は次の寄港地「Sand Point」に送ってくれると

のこと・・・再度指定箇所をチェックし連絡せよとFAXが届く

 

マストの隙間を計測し図面を書き上げる

側面のアールを忠実に再現しなくてはならない

エンジニア氏は「ノープロブレム!」・・・プレス機で再現可能と心強い・・・「明日持ってくる・・・」という

 

早くも、同日、夕方「終わったよ!」と曲げ加工、穴あけまで済ませて持ってきてくれた

「明日、タッピング作業をしよう」と帰っていった

 

マーケットで見つけた赤蕪(ビーツ)でボルシチ(サワークリームたっぷり)

ビール二本ですっかり酔ってしまった

写真上 キングコーブの夕暮れ

暖かな、穏やか日の大事件だった・・・

WILLIWAWの村・・・3

翌日マストを見ていて、何かが変だ!

 

マストの中心が少し右にツイストしている

デッキとマストの防水カバーを慌てて取り除く

ヒビが入り少しつぶれている!!

妻とそれを見て・・・呆然自失!

この旅は続けられるだろうか・・・?

 

気を取り直し、ハーバーマスターに相談する

高木さんも多忙に関わらず、ピーターパンのチーフエンジニアをつれて来てくれる

写真上  中央の大男がHマスター(Mr.Jon Gehrman)

左がチーフエンジニア

チーフエンジニア氏は「溶接しよう」という

マストを船から抜き取るのはこの環境では無理だ・・・クレーンが必要になるし、私の苦手な電気関連の作業も必要だ・・・

 

「じゃあ、金属の副木を造ろう・・・」

 

ピーターパンの修理工場に案内される

僻地の工場なので機械・設備の修理はここで完結できるよう充実の工場である・・・使えそうな材料を選べという

あとは私が図面を起こせばそれを作ってくれるという

不安で胸が一杯だが・・・それに賭けよう